シンガポールのMICEモデルを手本とする日本のカジノ

日本でカジノ構想が始まって以来、さまざまな議論が行われてきました。そして、現在の日本のカジノホテルがシンガポールの競合施設をモデルにすることが明らかになりました。

世界的に見ても、アジア太平洋地域における不動産戦略・投資家アドバイザリーの責任者を務めるアンドリュー・ハスキンズ氏が「シンガポールのマリーナ ベイ サンズや [リゾート ワールド] セントーサのモデルは、日本の複合施設でも多くの訪問者とMICE ビジネスを獲得することができるるはずだ」と述べるなど、注目を集めています。

ここでは、シンガポールのMICEビジネスモデルの内容を踏まえ、MICEをどのように手本とし、日本におけるカジノを発展させていくのか、今後の展望について考えていきます。

日本におけるカジノ構想

日本ではカジノに関する法案について長年議論されてきました。ここ数年、日本でもGGBetなどのようなオンラインカジノが非常に大きな注目を集めていますが、日本のカジノに対する規制が経済に与える影響について懸念されるという意見が、以前から多々ありました。特に2014年頃からは国会でも世論でもカジノ法案についての議論が盛り上がりを見せ、遂に2018年に国会で「特定複合観光施設区域整備の促進に関する法律(IR推進法)」が可決されました。

これにより、もともと刑法で賭博行為として禁止されていたカジノ事業が合法化されることとなったのです。つまり、本格的なカジノギャンブル産業への道が開かれたのです。

そして、専門家や有識者の意見などを踏まえ、シンガポールの統合型リゾート モデルをエミュレートする案が提出されました。それは、統合型リゾート、またはカジノ、ホテル、レストラン、ショッピング、ライブエンターテイメントを提供する大規模な休暇の目的地のための一連のガイドラインとライセンス規制の確立を想定しています。

日本政府は、アジア太平洋地域でのMICE ビジネスの獲得において都市国家に匹敵することを目標に掲げました。

世界的なパンデミック以降、現在では、オンラインカジノサイトのGGBetなどでプレイする人たちが世界的に増加したこともあり、このような傾向は日本でのMICEビジネスにも繋がる可能性が大いにあるとも一部では考えられます。

シンガポールのカジノはどんなものか

IRとは、ホテルなどの宿泊施設、会議室やコンベンションホール、レストラン、カフェ、小売店に加えて、カジノや娯楽施設から成る大規模な複合型リゾート施設を指します。

2010年、シンガポールはカジノを承認し、2つの統合型リゾートの「リゾート・ワールド・セントーサ」と「マリーナ・ベイ・サンズ」を設立しました。特に、シンガポールの象徴的なIR施設であるマリーナ・ベイ・サンズは、日本版IRのベンチマークと見なすことができます。2000年代後半には、世界的金融危機のリーマンショックが発生し、全世界の経済に大打撃を与えたにも関わらず、シンガポールの大規模IR施設は、海外からの訪問者数と国内消費の大幅かつ継続的な増加を同国にもたらしました。事実、カジノの収益が減少しているにもかかわらず、シンガポールの2つのカジノは、国全体にとって大きな収益源になっています。シンガポール統計局が収集したデータによると、同国の訪問者数は 2009年に970万人だったのが、2015年には1,520万人と増加しました。その結果、観光客の収入は2009年は88 億米ドルだったのが2015年には151.6 億米ドルにも増大したのです。更に、2000年~2016年のシンガポールの経済成長率はプラス5.3%と、目を見張るものになりました。

シンガポールは、会議・インセンティブ・コンベンション・エキシビションのMICE市場でグローバルプレーヤーとして成長したことに見られるように、シンガポールのIR事業は政府主導での公共政策の最も成功した例の1つと言っても過言ではないのです。

なぜ日本政府はMICEを手本とするのか

観光立国を目指す日本政府は、観光産業を日本経済の最も重要な成長戦略の柱の一つと位置付け、訪日外国人旅行者の需要を満たすためにさまざまな取り組みを行っています。現在、日本は2016年に設定された「2030年までに年間6,000万人の外国人観光客を受け入れる」という目標を達成しようと千思万考し、さまざまな政策案を打ち出しています。その一つの政策として、IRがあるのです。では、カジノ事業による莫大な収益を活用して何を実現しようとしているのか。

前述したように、シンガポール政府の手がけるMICEは多大なる経済成長をもたらし、最も成功した政策とされています。シンガポール政府の考えの最前線にあるのは、世界クラスの観光名所としての国の評判を発展させることです。最初から外国人観光客にアピールするようにカジノを設計したのです。これは、日本政府が掲げるインバウンド需要の成長戦略にも通じるところがあります。日本のIR推進法で定められたのは、すべてのIR施設には必要な中核施設がいくつかあるということです。日本のIR施設は、カジノ施設のほか、展示場や国際会議場などのMICE施設、魅力発信施設、観光拠点施設、宿泊施設などで構成されるのです。実際に、シンガポールの 2 つの統合型リゾートは、カジノとダイニング、エンターテイメント、コンベンション ビジネスを組み合わせたものであり、日本が模倣する好ましいモデルである、と国会議員は述べています。カジノは基本的に週末営業中心のビジネスモデルと定義されることが多いですが、平日も運営可能なMICE施設は、宿泊施設を含めたIR施設全体の運営に貢献するものです。そういった意味でも、MICEはカジノと両立できるので、MICE開催による経済への波及効果は非常に大きいと言うことができるでしょう。

シンガポールのIR施設も、ギャンブルの聖地であるラスベガスのIR施設も、大規模なMICE施設を伴っていて、ビジネス関連の需要を喚起しています。

特に、日本を訪れる国際会議参加者は滞在中に平均36万円を消費しているというデータもあり、これは一般の観光客が消費する16万円の2倍以上の金額になります。

それと併せて、ギャンブルに関連するあらゆる悪影響から先住民族を保護するためのいくつかの保護措置を講じることも、シンガポール政府は提言しました。事実、日本でIR法案について議論されている時に懸念されていた事項の一つが「ギャンブル依存症」についてでした。シンガポールでも同様の懸案がありました。そこで、シンガポール政府はカジノで地元の人々がギャンブルをすることを思い留まらせギャンブル依存を最小限に抑えようとする規制を制定しました。しかし、それにも関わらず、大きな経済的成功を納めているシンガポールは、日本がモデルにするには最適だったと言えるでしょう。

す。この事からも、MICE事業の推進は、外国人旅行者の消費を増やすという政府の政策とも一致するものなのです。

日本が目指すIRと将来

カジノ施設は、民間企業が所有・運営する大規模統合型リゾートのIR施設​​内に一体的に開発・運営されるものです。MICE事業において、ここではカジノのプレーヤーやイベント参加者の直接的な消費活動に加え、商談や広告活動に伴った新しい契約や新規のビジネスチャンスの創出などにも期待されています。

最初のIR施設は大阪の夢洲の 49 ヘクタールに建設される予定となっています。この開発には、日本庭園や健康と癒しに特化した特別室を含む約1,000室を有する6つのホテル、更に、水がテーマのアミューズメントパークや様々なエンターテイメント機能も組み込まれます。

この施設は大規模に建設され、総投資額は数千億〜1兆円にまで及ぶと報告されています。当初は2020年代半ばにオープンする予定でしたが、パンデミックや社会的情勢の変化によって、当初の計画から少々ずれるだろうとの予測もあります。しかし、今後の日本の経済成長にあたって日本版IR施設は重要な役割を果たすことは明らかであり、2020年代には完成を目指すものだと思われます。

内部補助制度を活用し、収益性の高いカジノ施設と世界クラスのMICE施設を相互に関連させて開発することによって、今後、日本におけるカジノ業界とMICE市場での存在感を、新たな日本の経済成長戦略を世界にアピールしていくことが重要視されるでしょう。

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